カイロス時間:All Dogs Live in the Moment--飼い主と一緒なら、何歳からでも犬は変われる

[2020]イヌは自分の好きよりも飼い主の好きを優先する!

Human Expressions of Object Preference Affect Dogs’ Perceptual Focus, but Not Their Action Choices

書誌情報Hoi-Lam Jim, Friederike Range, Sarah Marshall-Pescini, Rachel Dale and Joshua M. Plotnik, Front. Psychol., 06 November 2020, Sec. Comparative Psychology, Volume 11 – 2020, https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.588916

Notice

表題の論文を日本語訳してみました。翻訳アプリにかけた日本語訳を英文に照らして修正していますが、表記のゆれや訳の間違いがあるかもしれません。正確に内容を知りたい方は、原文をご覧ください。

要旨:Abstract

乳幼児を対象とした研究にヒントを得て、イヌの行動がヒトの好みの表現に誘導され、イヌ自身の選択と対比されるかどうかを調査した。

報酬付きモッテコイ課題において、イヌは自分が「嫌なもの」に対して興味を上書きし、飼い主が好むものを回収する。

しかし、これまでの研究ではイヌにとってどちらの物体も本来は中立であり、「喜んでいる飼い主」がポジティブな結果を予測するため、飼い主の物体を選択した可能性がある。

もし、本当にイヌが自分の興味を覆すことができるのであれば、(1)飼い主とは別のモノを好んでいて、(2)報酬を得ることができなくても、自分の好みではない飼い主の好むモノを取ってくることが予想される。

比較対象は「おもちゃ(輪っか)」と「ブレスレット」の2つである。

最初の嗜好性テストで、すべてのイヌがオモチャを好むことを確認したあと、二者択一の手順を適用し、飼い主によるモッテコイの指示と遠くからその物体を見ることのどちらが、犬の選択に影響されるかをテストした。

調査1では、飼い主がブレスレットに対する好意とおもちゃに対する嫌悪感を、言葉とともに顔や体のジェスチャーで表現した。

その後、飼い主はイヌにおもちゃをとってくるよう指示した(追加の指示はなし)。

その結果、すべてのイヌがおもちゃを取りに行き、飼い主のポジティブな感情によってイヌ自身の選択が覆されることはなかった。

調査2では、対象物に直接触れることを避けるため、感情表現後に対象物を手の届かない場所に置き、対象物を見る時間を計測した。

「ブレスレット」(非対照)群では、研究1と同様に、飼い主はブレスレットに対して幸福感を示し、おもちゃに対して嫌悪感を示した。

「おもちゃ」(マッチング)群では、飼い主はおもちゃに喜びを示し、ブレスレットに嫌悪感を示した。

それらが手の届かない場所に置かれたとき、イヌは両方の物を同じ時間見たが、非マッチング群においては、イヌはおもちゃのほうを長く見た。

本調査ではイヌが対象物に対する自分の好みを上書きすることは実証されなかったが、飼い主が表現した好みがイヌに知覚され、イヌの知覚の焦点を誘導することが示唆された。

はじめに:Introduction

言葉を話せない子どもの認知・情動発達に関する研究は、しばしばヒト以外の動物を対象としたものと同じような課題に直面する。

私たちは幼児を対象とした研究(Repacholi and Gopnik, 1997)にヒントを得て、イヌがヒトの感情表現を情報手がかりとして使えるかどうかを、イヌ自身の選択肢に対する好みとヒトの選択肢に対する表情が競合する二者択一の課題で検証することにした。

Repacholi and Gopnik (1997) は、ヒトの幼児が欲求の主観性、すなわち、同じ対象に対して異なる態度をとることがあるということを理解しているかどうかを調べた。

彼らは2種類の食べ物(クラッカーとブロッコリー)を使い、2つのグループを作り出した。

このグループは実験者がどの食品を好むかという点で異なっており、参加者は一つの食品(クラッカー)に強い好みを示すという前提のもとで行われた。

その結果、1歳半の子どもは、子どもが好まない食べ物(ブロッコリー)であっても、実験者が以前から好んでいた食べ物を実験者に差し出すことがわかった。

一方、14カ月児は、実験者の好みの表示にかかわらず、クラッカー(=自分の好みの食べ物)を提供した。

この結果から、1歳半の子どもは相手の好みを推測することができ、感情表現から欲求が推測されることを認識していることが示唆された。

われわれは家庭犬も幼児のばあいと同じように、飼い主の欲求を示す表情に行動が影響される可能性があると仮定した。

イヌがヒトの表情を識別できることは、いくつかの研究によって証明されている。

Nagasawaら(2011)は2つの物体選択課題において、イヌが飼い主の無表情と笑顔を識別する能力を検証し、その感覚学習が見知らぬ人の写真を含む新規写真に一般化するかどうかを検証した。

また、イヌは明確な合図(Tauzin et al., 2015)や、古いコホート研究においては価数の異なるヒトの声(Smit et al., 2019)にも敏感であることが示された。

2つの物体選択課題において、イヌはヒトが好んでいる表情を示した物体を選択する(Prato-Previde et al, 2008; Buttelmann and Tomasello, 2013; Merola et al, 2014; Turcsán et al, 2015)。

しかし、これらの研究ではイヌにとって中立的な刺激(たとえば、Turcsán et al., 2015ではポジティブな状況とネガティブな状況の両方で同一のペットボトルを使用)を用いたため、イヌが自分の好みと飼い主の好みを区別することができるかどうかは不明であった。

Prato-Prevideら(2008)の研究では、飼い主が2つの量の餌を好むという表現と、イヌが本来もっている大きい方を好むという条件の対比を用いたが、飼い主の表現した好みの効果は、同じように小さい量を2つ提供して量の情報を除去したときに最も強くなった。

重要なことは、他者の内的状態に関する情報(例:好み)は種によって利用方法が異なり、どのような行動に影響を与えるかのちがいにつながるかもしれないということである。

ヒトの子どもと若いチンパンジーを比較すると(Warneken, 2006)、利他的な動機や向社会的な援助を示す行動はヒトの子どものほうがより強く表現される。

イヌの社会的認知は人間の社会環境に適応しているようにみえるが(Hare and Tomasello, 2005; Topál et al., 2009)、もっとも近い野生の親類であるオオカミと比較して、イヌがより競争的であり、かつ/またはより向社会的ではない可能性があるという証拠も蓄積されている(Range and Virányi, 2014; Dale et al., 2017, 2019, 2020)。

向社会性だけでなく、抑制的制御(すぐに報酬を得られる行動よりも、後から最終的により報酬を得られる行動を優先してガマンする能力)も、社会的意思決定、すなわち、目標指向行動が他者の選好によってどの程度影響を受けるかに影響する(Macphail 1970;Hulbert and Anderson, 2008;Bari and Robbins, 2013)。

つまり、積極的に他者の役に立つ行動をするには、他者が何を望んでいるかを察知することにくわえて、自分の好みを抑制することが必要なのかもしれない。

子どものばあい、利他的な4~6歳児が非利他的な子どもよりも抑制課題の成績が良いことから、自制心は利己的に行動する衝動を抑制することができるといえる(Aguilar-Pardo et al., 2013)。

イヌはタッチスクリーンテストで示された衝動制御にも差があるが(Bunford et al., 2019)、抑制制御と社会行動との関連は、これまでのところ、抑制制御が高いイヌほど強い不公平嫌悪の発現があった(Brucks et al., 2017)ことのみ発見されており、協調的行動(Dale et al., 2020)については発見されていない。

たとえば、オマキザル(Cebus apella)は餌に直接手を伸ばす傾向を容易に抑制できるが、タマリン(Saguinus oedipus)は訓練しても抑制できない(Lakshminarayan and Santos, 2009)など、前駆反応を抑制する能力(背外側前頭前皮質の成熟度に関連する)は同じ種であっても分類群で大きく異なる。

重要なことは、たとえ感情表現が内的状態に関する情報として受け取られなかったとしても、動物がコミュニケーション信号に対してどのように反応するかに抑制が関与していることである。

ヒトが満足することでイヌ自身が得られる報酬は、自分の好みを選択することで得られる報酬と競合する可能性があり、その場合にも、後者より前者を選択できるようにするためには、抑制的な制御が必要となる可能性がある。

このような文献を踏まえ、ここでは好みのような他者の内的状態に対する感受性が、必ずしも能動的な行動に表れない可能性があることを考察する。

イヌたちに好みの対象との接触を克服する自制心がない可能性があるため、対象物が手に届かないときにはモッテコイ課題だけでなく、ルッキング(飼い主を見つめる時間)オリエンテーションもテストすることにした。

飼い主の「好き・嫌い」表現がイヌの行動に因果的に影響する可能性を想定して、後者の見る時間や向きがイヌの注意・関心の移動を反映し(Miklósi et al., 2003; Bognár et al., 2018; Petrazzini et al., 2020)、また、コミュニケーション意図を示す可能性もある(Miklósi et al., 2000)ことが何度か示された。

「与える」(Repacholi and Gopnik, 1997)のような積極的な援助行動は、ヒトの子どもでもっとも強いかもしれない(Warneken, 2006)ことから、他者の好みの認知はモッテコイのような行動にはあまり影響せず、イヌの知覚集中の運用として飼い主を見つめる時間の測定でより明確になるのではないかと予想された。

また、イヌの行動の根本的な原動力が社会的報酬と非社会的報酬の競合であると仮定すれば、ヒトの選好的表現の影響はモッテコイ条件では弱いと予想される。手の届くところにある物体は強い条件(Gibson, 1977)であり、社会的な手がかりとなる報酬から目をそらす可能性がある。

本調査はTurcsánら(2015)の研究をそのまま踏襲したもので、著者らは「イヌは2つの感情のうちどちらがポジティブかを認識することができ、モッテコイ課題の場面では『嫌なもの』に対する自分の興味を上書きして飼い主が好むものを取り出す」と主張している。

「しかし、引用した研究ではイヌにとって2つの物体(ペットボトル)はもともと中立であり、『幸せな飼い主』はポジティブな結果を予測するので、飼い主がポジティブな意味合いをつけた物体を選択すればよいため、イヌは興味を上書きすることは『簡単』でした」

イヌが飼い主の感情表現を報酬ではなく、飼い主の内的状態と結びつけているかどうかを調べるためには、二者択一パラダイムにおける対象物の価値は、飼い主にとってより魅力的なものと、イヌにとってより魅力的なものでなければならない。

もし、イヌが本当に自分の興味を上書きすることができるのであれば、たとえ飼い主とは別のものを好んでいても、飼い主の望む物体を取ってきて、それに対する報酬を受け取らないことが予想される。

そのため、(1)異なる固有価をもつ2つの物体を用い、片方は明らかにイヌが好むモノにし、(2)飼い主がポジティブな感情表現を示した物体を選択することによって食べ物(Buttelmann and Tomasello, 2013; Turcsán et al, 2015)やおもちゃ(Merola et al, 2014)などの報酬を得た先行研究とは異なり、イヌの選択行動に影響を与えたかもしれない報酬は与えなかった。

Repacholi and Gopnik (1997)の研究で感情を示すのは実験者であったが、われわれは飼い主にこのタスクをやってくれるよう依頼した。

飼い主はプロの俳優ではないという制約はあるもののこれまでの研究で、イヌは見知らぬ実験者と比較して自分の飼い主のポジティブな感情表現とネガティブな感情表現をよりよく区別することが示されている(Merola et al., 2014)からである。

つまり、われわれのおもな目的はイヌの行動がヒトの好き・嫌いの表現に誘導されて、イヌ自身の選択と対比されるのかどうかを調べることであった。

しかし、嗜好に関する情報がどのように伝達され、それが受け手にとってどのような意味をもつかは今回の研究の範囲外である。

なお、外見的に観察できる行動では、共感やコミュニケーションといったメカニズムは必ずしも区別できない(Miklósi, 2009)。

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