カイロス時間:All Dogs Live in the Moment--飼い主と一緒なら、何歳からでも犬は変われる

Study 2 物体を見る:Looking at the Objects

今回の研究では、どちらの物体もイヌの手の届かないところに置かれた。

こうすることでイヌと同じ物(おもちゃ)を好む飼い主と、イヌとは別の物(ブレスレット)を好む飼い主の2つのグループで見る時間や方向を比較することができた。

マッチング条件(おもちゃには好意を示すが、ブレスレットには嫌悪感を示す)では、2つの対象物のあいだの視認時間の差が最も大きく、非マッチング条件では、自分と相手の知覚・推測される好みが干渉する結果、視認時間の差が小さくなると予想される。

対象:Subjects

先行研究の手順を知らない51頭の犬が、2つのグループに割り当てられた。

マッチング条件(トイ群)には26頭の犬が参加した(1~10歳、平均年齢=3.55歳、SD=2.23歳、オス50%、去勢済み58%、雑種犬8頭、ゴールデンレトリーバー3頭、イングリッシュブルテリア2頭、スタッフォードシャーブルテリア2頭、ビーグル2頭、ラブラドールレトリーバー、イングリッシュコッカースパニエル、ウィペット、ミニチュアシュナウザー、グレートデン、プーミー、キャバリアキングチャールズスパニエル、オーストラリアンラブラドゥードル、ボーダーコリー)。

非マッチング条件(ブレスレット群)では、25頭の犬(1.3~8.5歳、平均年齢=3.89歳、SD=2.14、男性44%、去勢済み72%、雑種犬13頭、ゴールデンレトリーバー2頭、ラブラドールレトリーバー3頭、ボーダーコリー、ミニチュアダックス、エアデールテリア、ビションハバニーズ、スタンダードプードル、トランシルバニアンハウンド、ビーグル)を対象とした。

物体選択テスト:Object Preference Test

テストは研究1と同じであった。

飼い主によるデモンストレーション:Demonstration by the Owner

マッチング条件(おもちゃ群)では、飼い主はおもちゃに対して喜びを、ブレスレットに対して嫌悪感を示した。一方、非マッチング条件(ブレスレット群)では飼い主はブレスレットに幸福感を示し、おもちゃに嫌悪感を示した。それ以外は調査1と同じ手順で行った。

物体を隠す:Object Hiding

デモ終了後、飼い主はイヌのもとに戻って椅子に座り、リードをつけたままイヌを抱いた。

実験者は物体のところに行き、イヌが届かないように2m離れた窓辺に両方の物体を置き(図1C)、椅子の横に戻った。

物体のリクエスト:Object Requesting

飼い主はイヌを自由にさせ「Hozd」(ハンガリー語で「モッテコイ」)と言った。

飼い主は、方向の指示を行わず、真正面を見ているように指示された。

イヌは部屋のなかを自由に動き回ることができ、対象物を見ることはできたが、手を伸ばすことはできなかった。

この段階での時間の長さは30秒であった(図1D)。「ブレスレットを見る」と「おもちゃを見る」の行動変数の持続時間を測定した(このフェーズの総時間で割り%とした)。

統計分析:Statistical Analysis

変数は、8人の被験者に対して第二の観察者がコード化した。

われわれは、平均的な測定値間の絶対的な一致を求め、二元的ランダムなクラス内相関(ICC、McGraw and Wong, 1996)を用いて観察者間の信頼性を評価した。

ICCはブレスレットを見る変数で0.706、おもちゃを見る変数で0.764であった。

対象物を見るテストでは3頭が対象物を見なかった(おもちゃ群で1頭、ブレスレット群で2頭)ので、これらのイヌは今後の分析から除外した。4頭(両群から2頭)は技術的な問題(手順に従うことへの問題)のため除外せざるを得なかった。

したがって、最終的なサンプルサイズはおもちゃ群23頭、ブレスレット群21頭であった。

一般化線形混合モデル(GLMM)を用いて、対象物や条件によって注視時間がどのように異なるかを調査した。

とくに初期モデルでは、年齢、性別、生殖状態、条件(2段階:マッチング対非マッチング)、対象(2段階:おもちゃ対ブレスレット)に加え、性別×生殖状態、条件×対象の交互作用が含まれていた。

ガンマ分布の仮定 (Nelder and Wedderburn, 1972)、係数のロバスト検定、および自由度を計算するためのサタースウェイト法を備えたモデルが指定された。

これは、正規分布の仮定が破られたためである(視聴時間の残差に対する正規性の Kolmogorov-Smirnov 検定、 p < 0.001)。

モデルは赤池情報量基準と組み合わせ、後方消去によって最適化した。

すなわち、交互作用に属さない有意性の低い予測因子は最適な(最小の)赤池値に達するまで除去された。

事前(対照)分析および事後分析は、t検定(条件内比較は対のt検定、条件間比較は独立標本t検定)で構成した。

すべての分析は、SPSS v25で実施した。

結果と考察:Results and Discussion

条件はいずれかの物体を見るのに費した時間の合計割合に影響を与えず (独立サンプル t = -0.037, p = 0.971)、つまり、各条件のイヌは平均して22%の時間、いずれかの物体(おもちゃまたはブレスレット)を注視していたのであった。

視線時間(全試行時間に対する割合)を予測する最終モデルは、条件、対象、およびそれらの交互作用を含んでいた。条件×対象物の交互作用は有意であった(GLMM, F1,80 = 4.585, p = 0.035)。

マッチング条件において、イヌはブレスレットよりおもちゃを長く見ていたが(16.3±3 vs. 6.3±1.5, % looking duration, means ± SE; t80 = 2.986, p = 0.004, Figure 2)、非マッチング条件では、そうではなかった(p = 0.636).

条件間においては、非対照条件ではブレスレットをみる時間が長い傾向が見られた(11±2 vs. 6.3±1.5, % looking duration, mean ± SE; t80 = 1.878, p = 0.064)。

おもちゃへの注視時間については、条件間で差はみられなかった(p = 0.285)。

飼い主のデモンストレーションがイヌの行動に影響を与えた。

飼い主とイヌの好みが一致したばあい、イヌは好みの対象(おもちゃ)を好みの対象でないもの(ブレスレット)よりも多く見るようになった。

飼い主とイヌの好みが一致しないばあいは、飼い主が好みイヌは好んでいないもの(ブレスレット)を見る時間が増加する傾向を示した。

この結果は、イヌの「見る」という行動は、飼い主の好みとイヌ自身の好みの相互作用に影響されることを示唆している。

とくに、条件間で観察されたパターンはマッチング条件においてのみ視線時間の差が有意であったことから、イヌ自身の「好き・嫌い」が飼い主の示した感情と一致したばあい増幅されることを示唆する。

しかし、これらの結果から感情的な表情や飼い主の視線の向きが関連する重要な刺激であるかどうかは定かではない。

そこで、本調査では物体要求段階での飼い主の視線が、物体選択段階でのイヌにとって示唆的であるかどうかを検討した。

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